人工知能には何ができないのか
人工知能にはまだ当面できそうにないことがいくつか(本当はたくさん)ある。
例えば、
1.99%の普段の仕事はできても残り1%の異常事態に対応できない
2.判断ができない
などがそれである。
まず1.に関してみていこう。
例えば、クリニックにいる医者のところには様々な患者がくるが、
その99%は「風邪ですね」、「インフルエンザですね」という定型的な対応でなんとかなってしまう。
これらをコンピューターに置き換えることは容易い。
一方で、その99%に属さない、本当に危ない病気の患者、その場で倒れてしまい介抱が必要な患者、
緊急の処置を行わなければいけない患者、ボケ老人が怒りだして暴れる、子供が一人で来る、ヤクザがお礼参りに来る
など様々なケースが考えられる。
電車の運転手も同様で、線路にひとが飛び出したり、踏切で事故があったり、人身事故が置きたり、
信号機故障がおきたり、線路に置き石があったり、モーターから異音がしたり、レーザーポインターで狙撃されたり
病人が出たり、地震や火事、嵐や雪、扉が閉まらなくなったり、いろいろなことがある。
たった1%程度の中に多様な異常がありうる。
これらの何が難しいかというと、まずデータが集めにくいという点だ。
暴れるボケ老人の対処策をコンピューターに学ばせようと思っても、
なかなかそんなケースはない。緊急の処置もその患者ごとに異なり、なかなかデータを集められない。
仮にそれらを集めて対応できたとしても、もっと珍しい問題が起こり対処できないケースが出てくる。
また、人間は身体を持つため、様々な事例に対して対応することが可能だが、
ロボットで実施しようとするとそれは難しい。緊急対応のために、ベッドへの搬送機能とAED機能と、
警察に通報する機能等多彩な機能をつけることになり、莫大な価格になってしまう。
山手線を完全自動運転しようとすれば、いろいろな天候、妨害、事件・事故を考慮しなければならない。
どんな天候にも耐えうるセンサーを付けて、
外部から撹乱されないようなセキュリティ機能と異常音検知機能、事故時の別動可能なロボットでの対応など
様々な機能が必要になる。そもそも人件費を浮かせるために人工知能にしたとしたら本末転倒である。
次に2.「判断ができない」について見ていこう。
もちろん、風邪かインフルエンザかというような定型的な判断はもはや機械のほうが正確かもしれない。
しかし、実際には医者はもっといろいろな判断が必要になる。
例えば、「薬を飲んだけど全然効かなかった。もっと強い薬を出してほしい」と言われたらどうするか。
人間は仮説を考えて、それを検証する質問をする。
・この人は本当のことを言っているだろうか? → 「昨日は何時頃飲みました?」
・薬の飲み方が間違っているのではないか? → 「他に飲んでいる薬とかはありますか」
このような直接検証できないような仮説も質問に応える様子を見て判断する。
例えば、スラスラ答えているか、答えに詰まっているか、目が泳いでいるか、何かを思い出している感じかなどである。
質問する際に疑われていると取られてはより薬を飲んでくれなくなる恐れもあるので、
質問は慎重にしなければいけない。
コンピューターが同様のことをしようとすると、
このような質問が来た時は、こういう場合が考えられるので、こういう質問で判断する
というようなデーターベースを作ることになる。
Akinator(思い浮かべているキャラクターを質問で当ててくれるウェブサイト)はその一種だ。
しかしこのようなデータベース化を行うと、データベースにない質問には答えられない。
また人間も賢いため、こういう薬がほしい時はこう答えれば良いというデータベースが作られて
ネット上で共有されかねない。
あるいは、「インフルエンザが陰性だったので今日は仕事をしてもいいか?」と言われたらどうするか。
人間の場合、その質問に対する回答が正しいかどうか以上に、その回答をしたとして、納得されるだろうか、責任が取れるだろうか
ということが重要視される。
もし本当はインフルエンザだったり、別の病気だったりして多数のひとに伝染させてしまうと
大変なことになり責任は取れない。出来る限り仕事へ行くなと言いたいところだが、
そうは言っても重要な会議があったり、怖い上司に怒られたりするなら、このひとは納得しないだろう。
そこで人間は、いろいろな仮説を考慮し質問する。
多数の人に伝染るような人前に行く仕事かどうか、このひとは仕事に行きたいのか上司が怖いのか、などを聞き出す。
最終的には
「じゃあ診断書を出しますからこれを上司に提出してください。何か言われたら私のせいにしていいですから」
と言った判断を下すかもしれない。
コンピューターにはそもそもどのような回答をしたとしても責任を取ることができない。
そのため、少しでもリスクがあれば、なにもしないという判断しか下せない。
また人間の機微もサラリーマン世界の常識もわからないため、人間が納得するような回答を作り出すことはできないのである。
じゃあどうすればいいのか
コンピューターがどんなに発展しても人間にしかできない領域は残り続ける。
そのため、今の仕事の仕方を変えずにすべてを人工知能にやらせることはできない。
99%の仕事はコンピューターにさせて残り1%の難しい仕事、判断が必要な仕事(責任が伴う仕事)
は人間がやるという分業が必要になる。
医者であれば、待合室のブースに座るだけで風邪かインフルエンザかだいたい判断してくれて、
最終ジャッジは人間の医者がやるというような具合である。
電車であれば、朝と夕のラッシュ時は人間が運転するが、
昼間は自動運転とカメラを使った人間の監視で行うというような具合になる。
当面、医者も運転士も仕事が少し減るだけで首にならないが、
今までやっていた専門の仕事が減って説明するとか監視するというような仕事が増え、
つまらなくはなるだろう。
あるいは最近は、ネット上で医療相談できるサービスも出てきた。
などがそれだ。
もちろん相談できるだけで薬が出たり、医療行為が行われたりはしない。
このように範囲を狭めたサービスを行えば、人工知能で行える割合は増える。
99%のよくある質問はコンピューターが過去の似た質問を検索して、それを元に草案を作成、看護士が文章を直し、医者が最終チェックする、
1%の難しい質問は医者が回答するというような構成が可能になる。
以前も述べたが、人工知能普及にはこのようなサービス化がキーとなる。
このようなサービスに雇われる医師は毎日文面に問題ないか判断するだけだったりしてつまらないかもしれない。
我々の生活はどう変わるのか
人工知能の発展により、
こんなことがこの価格でできるの?という有料サービスは増えてくることだろう。
ask doctorsのようなサービスも質問がある程度溜まってくれば、
似た質問を検索して手直しするだけという割合が増え、
給料の高い医師をあまり雇わずに多数の人に回答が可能になり価格は下がると思われる。
ではこのような医療サービスが増えると街のクリニックが減るかというとそんなこともないだろう。
クリニックの中でも一時診察は機械というところも増えてくると思うが、
薬事の審査を通るのに10年程度は時間がかかるのでそのような機械が出てくるのはまだまだ先のことだと思う。
人工知能のせいばかりではないが我々の仕事は少しずつ、つまらなくなってきている。
当面仕事があるうちに、空いた時間で人工知能を作って仕事をさせる方にシフトしていく必要がある。
40以上の人は現役のうちに影響を受けることはないと思うが、
30代以下は楽しく仕事ができる方に自分を変えていったほうがいいかもしれない。
国としてもリソースのシフトを行っていくべきだろう。
しかし、国もこの分野の技術を正しく理解しているわけではない。
次回は間違いだらけの人工知能関係の政策などについて書いていきたい。